人が辞めることをどう捉えるか

社員が辞めない会社は、良い会社なのか。

企業が離職率を気にするのには理由があります。 採用と育成には費用がかかり、経験を積んだ社員の退職は、組織の知識や事業の継続にも影響します。 離職を減らそうとする判断自体は自然です。

ただし、離職率が低いという事実だけでは、社員がその企業を積極的に選んでいるかは分かりません。 仕事に満足して残る人もいれば、転職に伴う損失を避けて残る人もいます。 同じ在籍という結果でも、その理由は異なります。

退職も同じです。 退職者が出たことだけで、組織が失敗したとも、その人が企業を否定したとも判断できません。 離職率を下げることを唯一の目標にせず、社員が残る理由と離れる理由を分けて考える必要があります。

人が辞めることをどう捉えるかの要点。離職率だけでは分からないこと、退職後も関係が続き得ること、再入社の利点と限界を示す図。

離職率では在籍する理由を測れない

社員が組織にとどまる理由を考える手がかりとして、組織コミットメントの研究があります。 Meyer と Allen は、組織への結びつきを、「いたい」という愛着、「いる必要がある」という損失への意識、「いるべきだ」という義務感の三つに区別しました1。

この区別は、三つの理由が常に別々に働くことや、外部から個人の動機を判定できることを意味しません。 それでも、勤続年数や離職率だけから「社員に選ばれている」と結論づけないための注意点になります。

例えば、勤続十年という事実だけでは、仕事や仲間に魅力を感じているのか、退職による損失を避けているのかは判断できません。 離職率は人の出入りを示しますが、在籍する理由までは示しません。

離職率は、採用と育成の負担や、組織の変化を把握するために役立ちます。 しかし、「離職率が低い企業ほど、社員から高く評価されている」とは結論づけられません。 社員が残る理由には、組織への愛着以外の要因も含まれるからです。

退職後も企業との関係は続き得る

雇用契約が終われば、企業はその人に仕事を指示できなくなります。 一方で、元同僚との交流や、業界内での接点まで同時に終わるとは限りません。

Corredoira と Rosenkopf は、半導体産業における人材移動と特許引用の関係を分析しました。 人材を送り出した企業が、その人を受け入れた企業の特許を後に引用する傾向を示し、人材移動に伴う知識の流れが双方向になり得ると報告しています2。

この結果は、退職者との関係が必ず企業の利益になることを示すものではありません。 特許を扱う半導体産業の分析を、他の業種や職種にそのまま当てはめることもできません。

それでも、雇用の終了と人間関係の終了は区別できます。 退職者が顧客や協業相手になることもあります。 ただし、退職後の関係を、前職の機密情報を共有してもらう手段として扱うことはできません。 守秘義務や競合関係を尊重した範囲で、互いに連絡を取れる関係を残せるかが問われます。

再入社は採用手段の一つである

一度退職した企業に戻る人は、研究では再入社社員(boomerang employees)と呼ばれます。 以前の職場の文化や仕事の進め方を知っていることは、新規採用者にはない利点になり得ます。

Keller らは、大規模な医療機関で再入社者 2,053 人と新規採用者 10,858 人を比較しました。 この研究では、再入社直後の職務期間で再入社者が新規採用者を上回り、その差は社内調整をより必要とする仕事で大きいと報告されています3。

一方、Arnold らが管理職を対象に行った研究では、再入社した管理職の初年度の業績は、社内登用者や外部採用者と同程度でした。 その後の業績の改善は再入社者で相対的に小さく、再離職する可能性も他の採用経路より高いという結果でした4。

両研究は対象組織、職務、比較対象が異なります。 結果だけを並べて、再入社者と新規採用者の優劣を決めることはできません。 少なくとも、「再入社社員は新規採用者より常に優秀である」という主張は、これらの研究からは導けません。

再入社を検討するときは、以前に退職した理由が今も残っていないか、今回の職務が本人の経験と合うかを確認する必要があります。 再入社者の人数を増やすことと、本人と企業の双方にとって良い採用になることは別の課題です。

退職後も選択肢になれる関係をつくる

退職者との関係を維持するには、退職時の対応が問われます。 退職を不義理とみなす組織では、その後に交流を続けたり、再入社を検討したりしにくくなります。

退職の意思を尊重し、必要な引き継ぎを行い、雇用が終わった後も連絡を取り合える余地を残すことには意味があります。 これは、退職者を将来の採用候補として囲い込むためではありません。 社員が残る場合も離れる場合も、本人と組織が自分たちの選択を尊重できる関係にするためです。

企業が目指すのは、退職者を呼び戻すこと自体ではありません。 離職率や再入社率だけで組織を評価せず、必要なときにもう一度、互いを選択肢として検討できる関係をつくることです。

Footnotes

  1. Meyer, J. P., & Allen, N. J. (1991). A three-component conceptualization of organizational commitment. Human Resource Management Review, 1(1), 61–89. https://doi.org/10.1016/1053-4822(91)90011-Z ↩

  2. Corredoira, R. A., & Rosenkopf, L. (2010). Should auld acquaintance be forgot? The reverse transfer of knowledge through mobility ties. Strategic Management Journal, 31(2), 159–181. https://doi.org/10.1002/smj.803 ↩

  3. Keller, J. R., Kehoe, R. R., Bidwell, M., Collings, D., & Myer, A. (2021). In with the old? Examining when boomerang employees outperform new hires. Academy of Management Journal, 64(6), 1654–1684. https://doi.org/10.5465/amj.2019.1340 ↩

  4. Arnold, J. D., Van Iddekinge, C. H., Campion, M. C., Bauer, T. N., & Campion, M. A. (2021). Welcome back? Job performance and turnover of boomerang employees compared to internal and external hires. Journal of Management, 47(8), 2198–2225. https://doi.org/10.1177/0149206320936335 ↩

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